私の髪の毛は、金色というよりは黄色で、陽の光に照らされて透き通ることもなく不透明に重たい色をしている。髪質もかたくてぴんぴんと跳ねるので、首にかからないくらいの短さに揃えている。髪型だけを見たらまるで男のようだろう。

私の話し方は決して可愛らしくなく、それどころか声なんかは幼い頃からやっていた酒や煙草のせいで潰れていて低く濁っている。それは男のようというよりは人間らしさすらないようで、初めて行く店などで声を出すとほとんどの場合に二度見されるなんとも厄介な声だった。

私の体型は、女性らしい丸みを帯びて柔らかな…ということはやっぱりなくて、成長期にまともな栄養を取らずに過ごしたらそりゃあそうなるさ、というような貧相なものだ。出るところも引っ込むところもなくストンと細い。

ここでようやく、女性らしいかもしれないなと思いあたったのは身長だった。たしかに低い、それは単純に彼女を客観的に評価したとき、女性に見せた。もちろん小柄な男性だっているから100%ではなかったけど。

鏡に映る自分は、美しいとか醜いとかそういう評価をするようなステージに立てるほど、人間らしくない。女性らしくない。鏡に映る自分の身体の至るところにある傷痕に触れたら、冷たさが指先から侵入して視界から傷を覆った。

、こんなところにいたのか」

暗闇から声がして、月明かりだけで見ていた姿見に横から人影が増えた。現れた青年は私と違って神様が心をこめて丁寧に作り上げたのだということがはっきりわかる容姿をしていた。その美しさが私に近づいて、鏡に触れていた指先をするりと解いた。

彼は美しい人だ。金色の髪は細く柔らかく透き通っていて、長く伸ばされたそれはこんな仄かな月明かりすら受け止めて宝石のように輝いている。少し動くだけでサラサラと静かな音を立てて、滑らかにその肌を滑り落ちる。あれはきっと、一本一本の毛先にまでしっかりとした意思があって、彼を彩る為に動いているのだ。

薄暗い中でもはっきりと色が見て取れる瞳は、今は月明かりを受けてほんのりグリーンに見えている。その瞳はきっと内側から光っているんだと思う。私を見ると愛おしさを滲ませてゆっくり細められるけれど、そのまま完全に瞼が落ちる瞬間までは、長いまつげの下でグリーンは煌く。なんの意味もなくただじっと見つめれば普段より意識してゆっくりと瞬いて、開いた瞬間のグリーンの煌めきはこの世のどんな宝石よりも価値のある光を宿す。

優しく名前を呼ぶ声も、その響きだけでいつだって私の胸をざわつかせ泣きそうな気持ちにさせるのだ。低く落ち着いた声はその落ち着きのままにゆっくりと丁寧に話す。少し大げさに演技がかって、動きを伴ってされる話は、誰だってその内容に惹きつけられて何もかもを肯定し頷いてしまうに違いなかった。

そんな神に愛された彼が、お世辞にも美しいとはいえない、女性らしくすらない私をこうして愛し、そばにおいているのだから、最終的に生まれ落ちた人間という生き物はずいぶんと気まぐれらしい。

「メローネ、起きたの」

彼が私の名前を呼んで指先に触れてから、私の思考は彼の美しさを1つずつ数えるのに集中した。そこから少しだけ意識がそれたのは指先に柔らかな唇が触れたからで、ぱちりと瞬きをしてからやっと、私は名前を呼んできたメローネへの返事をした。

がいないから目が覚めたんだ。今日は冷えるな」
「ごめんなさい」
「いや、それはいいんだが…」

ゆるく絡まるように触れ合っていた指先から力がこもり、冷えると言うわりにはあたたかい指が手首へ這った。彼の大きな手では私の手首なんか細すぎるほどで、ぎゅっと握り込まれればすぐに折れてしまうかもしれない。しかし彼はそんなことはしないし、私に痛みや恐怖を与えたりはしない。そのあたたかい力は私の全身を引き寄せる軸になって、とん、と1歩踏み出せば、私は一糸纏わぬ彼の美しい胸板に額をつけることになる。

「また余計なことを考えていた顔をしてる。違うかい?」
「…メローネは美しいなって、考えてた」
「俺、"は"?」

彼の声の美しいところはここにもある。威圧しない、微妙な加減ですこしだけ響きを強くして、私がごまかそうとする部分を引き出すところ。自分が発する全てに対して、こうやって細かくコントロールできるところは素晴らしい。私はすぐに動揺し、うろたえ、目をそらしてしまうから。

「俺が美しくて、じゃあは?」
「私はメローネみたいにはなれない。神様に愛されてなんかいないから」
「俺だって神様になんか愛されちゃいないさ」

神様がいたなら、俺が世界で一番愛しいと思う君が、こんなふうに毎晩鏡を見つめて泣く姿を見せるはずがないだろう?

ほとんど囁くように、けれどはっきりとした響きは耳元で鳴って、私は鏡を見つめたときから時折瞳からこぼれていたそれが涙だったと思い出す。拭わなきゃ、神様に愛された美しいメローネが悲しんでしまう。自分で拭うより先に、彼の完璧に計算された長い指が私の涙を掬った。細くて美しいけれど決して女性的ではない指の背を私の大きな涙が雫になって流れてゆく。伺うように視線をあげればやっぱり悲しそうな顔をしているメローネが私を見下ろしていて、けれどその悲しそうな顔すら息を飲むほど美しいから、私の涙は止まりそうになかった。

「きっと何度言ったって信じてくれないと思うけど、君は綺麗だ、
「うそ」
「君が愛する男の言葉が信用できない?」
「だって、私は…」

美しさに縫い付けられた視線を無理矢理に鏡へ向ければ、映るのは醜い私の姿だ。まったく綺麗なんかじゃない。メローネのことは信用しているけれど、もし本当にそう思っているのならそれはきっとスタンド攻撃でも受けているんだろう。醜いものが、あまりにも美しく見えるスタンド。もしそうだとしたら、その攻撃が解かれた時彼は私のもとを去っていくに違いない。だって真実はこの醜さにつながる。

「…ごめんなさい。信じるわ、メローネのこと」
「聞き分けが良いところも愛してる。さあ、ベッドに戻ろう」
「うん、メローネ」

しっかり男らしいのに滑らかな手が私の腕をつかんだ。

またこうしてうまく言いくるめられて一緒に眠る、私はとてもずるい女だ。メローネはきっと狂っている。どこかで受けたスタンドのせいで、醜い私を美しいと思い込んでいる。きっと今彼を失えば私はそれ以上生きていくことはできなくって、心の奥底で「死にたくない」って思っている私はメローネが本当に正気に戻ったりはしないよう、自分の醜さに彼が気づかないのであればそのままであればいいと思っている。

「メローネ、ずっと、私のこと愛してくれる?」
「…ずいぶんと当たり前のことを聞くんだな。どうかした?」
「ううん、なんでもないの。ありがとう、メローネ」





そう言って笑ったの顔は、本人は信じてくれないがこの世の何よりも美しかった。それを嘘だと思いこんで、自分を醜いと思い込んでいるのことが可哀相で痛々しくって、そのマイナスな感情はこれをやったスタンド使いへの怒りと殺意に昇華されていく。

あと少し、あと少しで足取りが掴める。そのスタンド使いが死んで能力が解除されたら、またいつもみたいに笑ってほしい。



神様に愛されたメローネと私



そのスタンドが解けた翌日、泣きながら起きたは「メローネ、ありがとう」って、宇宙一綺麗に泣きながら笑った。