「げっ、メローネ」
「…」

今日はオフで暇だから、リビングでのんびり撮りためたテレビでも見たかった。でもリビングに降りたらソファにメローネがいたから、私は嫌だなと思った感情を隠しもせず声にだす。だしてからあんまり良くなかったなとは思ったけれど、今日のメローネはなんだかおとなしい。よく見ると次の仕事の用意なのか、一人掛けのソファに両膝を立てて座りパソコンをいじっている。今日は無害そうだ。

「テレビつけていい?うるさくないかな」
「あー、うん」

少しも顔をあげずに答える。ちょっと感じが悪いなと思ったけれど、私もメローネにはできる限り薄っぺらく反応するようにしているからお互い様だろう。



撮りためたテレビなんて実はそんなになくって、2時間もかからずに終わってしまった。テレビを見ていてもメローネの様子が気になってチラチラ見てしまっていたせいであんまり集中できなかった。そんな私とは反対に、メローネはずっと集中して仕事を続けていたみたいだけど。
時計を見たらそろそろ昼で、そういえばお腹が空いたような気もする。私とメローネの2人きりでいてこんなに長い間なんのトラブルもなかったのなんて久しぶりだ。私はすっきりしたような、メローネがいるのに静かなのはちょっとだけ寂しいような、不思議な気持ちだった。

「…ごはん、食べるけど…」

声をかけても返事はない。よっぽど集中してるのか、静かに響くタイピングの音と真剣な目。静かにしていればこんなに綺麗なのに、どうしてメローネはメローネなんだろう。声をかけても絶対にこっちを見ないメローネに少し腹が立つけれど、近寄らないで話しかけないではいつも私が言うことだ。構ってなんて言えるはずがない。

「ん?」

構ってなんて、言えるはずがない。それはそう、なんだけど。

(そもそも、私は構ってほしいのか?)

立ち上がってキッチンに向かう途中でメローネに声をかけた、そんな中途半端な姿勢で私は固まってしまった。自分で考えていたことだけど、私はもしかして今日、メローネと同じ空間にいるのに構われなかったことがさみしかったのか?そんな自問に返ってくる答えは見つからず、思わず片手で口元を覆った。メローネは変態だし、うっとうしいし、セクハラしてくるし、風呂ものぞくし、とにかく最悪だ。近くにいるだけで緊張してしまうしめんどくさい。本当に、本当に心の底からめんどくさいと思っている。はずなんだけど、この気持は何だろう。

「…おい、どうした?」
「へっ!?」

メローネに声をかけた姿勢のまま固まっていたので、パソコンからやっと顔を上げたメローネが怪訝な顔をして私を見上げる。いつもよりずいぶんと声が低くて落ち着いている、仕事モードの話し方だ。

「ああ、ごめん、考え事してた…」
「ふうん」

別に興味はありませんみたいな顔で顔を下ろしてしまったメローネに、なぜか心がちくんと痛んだ気がした。今のは、私に興味なんかないよっていう淡泊な反応をされたから痛んだんだろうか。もしそうだったら、私はメローネに構われたいだけでなく、冷たくされると寂しいってことになる。うっとうしいから来ないでほしいのに、それでも構ってほしいって、そんな気持ちってもしかして。…私は、メローネのことが。

「…ねえメローネ」
「なんだい?」
「私、メローネのこと、好きなのかな…」
「さあ……………、なんだって?」

ほとんど聞き流しながら相槌を打っていたメローネは、適当な返事をしたあと少しおいて顔を上げた。その顔はなんだか見たことがないくらい困惑の一色に染まっていて思わず笑ってしまう。

「ふふ、何その顔」
「いや、俺の顔なんてどうでもいいだろ、、今なんて言ったの」
「私ってメローネのことが好きなのかな?って聞いたの」

困惑して少しだけ下がっていた眉が可愛かったのに、今は綺麗な色の瞳が大きく見開かれている。びっくりしてる顔だなあ、なんて他人事みたいにおもって、それからやっぱりおとなしい反応をするメローネは珍しくて面白いなって思った。

「うっとうしいけど、構われないと寂しいみたい。それって好きなのかなって思ったの」
「なるほどね。間違いないよ。君は俺が好きなんだ。絶対に間違いない」

パソコンを机の上に映したメローネは、立ち上がって私の手を握る。上から見下ろしてくる目の色が見たことのないような輝き方をしていて、ああ、私がこの目を直視できなかったのは眩しくって好きだったからかもしれないななんて思う。だから、やっぱり好きみたいだって言う気持ちを込めて笑ってみた。

「そうだったのかも」
「そうと決まれば話は早い!、結婚しよう!今日!」
「えっ今日!?結婚!?待って、何言ってるの!?」
「子どもも作るぞ!俺の部屋に行こう!」

…一瞬の心の揺らぎを恋だと勘違いしただけだったかもしれない。すっと頭の中が冷えた。この感情はきっと後悔というやつだ。

私の膝の裏に手を回し軽々とお姫様抱っこをしたメローネはすっかりいつも通りの変態のメローネで、私はさっきまでの穏やかな気持ちとときめきを心の底から後悔し、すっと息を吸い込んだ。

「や、やだー!!誰かでてきてー!!」



大人しいとなんだか寂しいです


(くっついている部分は熱くて、鳥肌だってたっていなかったけど……)


お題:確かに恋だった 変態に恋されてしまいました5題