ボスが変わって、もともとのボス・ディアボロに反抗した暗殺チームの処遇は裏切り者から一転保留となった。
ボスの娘を人質にするためブチャラティ率いるチームに戦いを挑んでいたことは確かだったが、結果的にリゾットがボスに与えたダメージの大きさもジョルノがボスを倒すのに貢献したし、最終的な目的としては利害が一致していたという本当に運の良い保留処分だった。
とはいえ組織内での立場が良くなることもなく、新しい仕事も舞い込まないのでぼんやりと過ごす日々は、自分たちをなまけさせ能力を衰えさせたうえで殺そうという作戦なのではないかと疑ってしまう気持ちもなくはなかった。

そんなある日、アジトにかかってきた1本の電話を取る。それはなんと新しくボスとなったジョルノからで、要件はリゾットとの呼び出しだった。

「んー、私はいいや!リゾット、いってらっしゃい」
「ブチャラティもいるらしい」
「着替えてくるわ!」

は面倒くさいことが嫌いだ。だから本部からの呼び出しなんて心の底から行きたくないんだろう。パッショーネに入って1か月もたたずボスを殺し新しいボスとして君臨した15歳の少年の話は暗殺チームにも届いていた。チームの処遇の知らせを受けているのだから当然だ。今後をどうするのか、なんて小難しい話をされるに決まっているというは不機嫌で絶対に行かないという態度を貫いていたが、ブチャラティの名前を出した途端に外出の準備を始めるのだから単純なものだ。
はブチャラティを気に入っていて、それは彼に1度命を救われたことと態度がやさしいこと、子ども扱いしてこないことなど様々な要因から成っている。そのブチャラティの紹介で入った新人が、幹部になったブチャラティを押しのけてボスになったということも現在のボスが気に入らないという理由の一つだと少し前に漏らしていた。

「ジョルノってどんな人かしら。すごい、おっぱいとか見えそうな服で言って油断させたほうがいい?」
「見えるものがあるのか」
「ないわね!」

扉から顔を出したの肩は素肌で、着替えながら出てくるなよといつも思う。はあ、とでそうになったため息を飲み込んで玄関にいると、おいていかないで!とが駈け出してきた。ゆるい服を好むらしく、足首まで隠れる長さのふわりとした薄手のワンピースだ。涼しげな肩を隠すように花の模様で編み上げられたカーディガンを羽織っていて、デートにでも行くみたいな格好だ。これから行くのはギャング組織パッショーネの本部だぞ。





「絶対ゴリラみたいな大男だと思うわ。ブローノを差し置いて出世なんて信じられない」
「まだ言っているのか」
「納得いかないのよ」

ブローノは何とも思わないのかしら、と不満げな背中を見つめる。頭2個か3個は小さい少女は仕事さえなければ本当にただの子どもな上に、態度も発言も子どもなのでほとんど小学生のようだ。

「ブローノ!」
「ああ、

本部は顔パスで入ることができた。そこから先、最上階へ続くエレベータが開くと、そこにはブローノ・ブチャラティが待っていた。傍らにはその部下のミスタとアバッキオもいる。
開いた扉からその姿が見えた瞬間、はぱっと花の咲くようなという表現がしっくりくる顔で駈け出してブチャラティに抱きついた。その勢いを全部受け止めて頭をなでる動作は慣れたものだ。

「久しぶりね!私たちボスに呼び出されたの。ボスってブローノが引き入れた人なのよね?」
「そうか、まだ紹介もしていなかったんだったな。すまない」
「気にしなくていいわ。それより早く行きましょ!リゾット、遅いわ!」

はブチャラティの手を握ると、早く案内しろとばかりにせかす。後ろからゆっくり歩くリゾットを振り返るが、足は前へ進んでいく。ブチャラティと一緒にいた男2人もおそらくとは初対面で、あまりにべたべたとするその態度に驚いている様子だったが自己紹介もせず気にも留めず進んでいくあたりはさすがマイペースだ。

、ボスの前に俺の部下を2人紹介させてくれ」
「この人たち?」
「ああ。こっちがミスタ。そっちがアバッキオだ。ほかにも2人いるが今日はここにはいない。また今度食事でもしよう」
「ふうん。よろしくね。食事はブローノと2人でも大歓迎よ!」

興味がない、という風にちらっと見るだけのに苦笑する。リゾットも表情が動かないだけで気持ちとしては同じだ。興味のないものにはとことん興味がないらしい。一応、よろしくと声だけ出した2人のそれがの耳に届いたのかどうかも怪しい。

たどり着いた重厚な扉はいかにも、といった雰囲気でたたずんでいる。コンコン、とノックすればどうぞと穏やかな声がかかり、ブチャラティの手を握るの手に少し力が入る。それに気づいたブチャラティはそっと見下ろすと安心させるように笑顔をつくった。ギャングがなんて甘やかし方だよ、と言うのは声にださないし、もちろん表情にも出さない。

「ジョルノ、リゾット・ネエロとを連れてきた」
「ああ、ありがとうございます。ブチャラティ」

一瞬逆光でかすんだ姿が見えたとき、「ゴリラじゃない」と呟いた本当に小さな声はきっとリゾットにしか届かなかっただろう。表情に出さず心の中で笑う。

「はじめまして。ジョルノ・ジョバァーナです」
「…ッ、顔が綺麗ね!ミケランジェロの彫刻みたいに美しいわ!」

は綺麗なものがすきだ。ざっくり、俗世的にいうと「メンクイ」というやつである。その言葉に室内はシンと静まり返り、さすがのリゾットもちょっと驚いて目を見開いてしまった。直前までボスのことをぐちぐち言っていたのがウソのような変わり身だ。

「…ありがとうございます。ですね?あなたも美しい。会えて嬉しいです」

分厚いカーペットに足音を吸い込ませながら歩み寄ると、手の中からぱっと薔薇の花を一輪生み出して差し出した。

「…スタンドね。ブローチをお花に…命を生み出すのかしら。すごいわ」

手品だとでもはしゃぎそうなところ、スタンドの能力を冷静に見抜くところがの恐ろしいところだ。前者の反応を想像していたであろうジョルノ・ジョバァーナは少し驚いて、わかりましたか?と穏やかにほほ笑む。

「あなたがリゾット・ネエロですね」
「ああ」
「はじめまして。わざわざご足労いただいたのは、ご察しかとは思いますがあなたたちのチームの今後についてお知らせするためです」

真面目な話になるとわかった途端、はくるりとジョルノに背を向けブチャラティの後ろに下がった。お前のリーダーは誰だと言いたくなる態度だ。

「結果から言うと、暗殺チームは今後も存続が決まりました。現在、ご存じのとおり麻薬の流通・取扱いをしているルートを解体しています。ですが、その過程で組織を離れた派閥との衝突がうまれてしまいました。今日呼んだもう1つの要件は、次の仕事です」

ヒラリとかざされた紙に手を伸ばそうとする気配を感じて、リゾットがそれをつかんだ。見せて、とせがむのを無視し頭を抑え込む。には回していい仕事と悪い仕事がある。どちらかを見極める前にに情報は見せてはいけないというのが暗殺チームの暗黙のルールだった。

「み、見せてよリゾット」
「…ボス、の仕事を見たことは?」
「ブチャラティから聞いています。ですから、その仕事はぜひに」
「!!!リゾット、はやくっ」

無言で資料を渡しながらブチャラティを振り返ると、苦笑気味に首を振る。ブチャラティはの仕事を何度も間近で見ているから、ジョルノのへの認識にゆがみはないはずだ。そのうえで「ぜひに」なんていう案件、リゾットですら顔をしかめてしまう。

資料に目を通すの目は真剣そのもので、周りの空気を一切遮断しているようだった。一通りめくってから資料をジョルノに渡す。

「落としたら困るから返すわね。明日中に終わるわ!」
「大丈夫ですか?」
「全部覚えたわ!」

おっけー、と手で作って笑顔を向けられると、つい反射で笑顔になってしまう。初対面わずか数分で、はジョルノに懐いてしまった。人懐っこいのは良いことだが、あまりチームの外で知り合いを増やすとメローネあたりが「外にファンを増やすな」とわけのわからないことでキレるから面倒だな、と考えた。

「私、ブローノを差し置いてボスになるなんてどんな厚かましい新人なんだろうって思ってたの。イメージと全然違ったわ」
「そうなんですか?」
「そうよ!」

思ってたよりずっとやさしい感じ。手に持った薔薇の香りをかいで目を細めると、用事は済んだなら、と踵を返す。

「じゃあ、終わったらまた報告に来るわね。チャオ!」

帰りましょ、とリゾットの手を引いて出ていくを見送って扉が閉まる。

「ブチャラティに聞いていた数倍のテンションでした」
「かわいらしいだろう」
「ええ、とっても」

あの子が、本当に?と問いかけようとした声は飲み込んでおいた。ブチャラティに聞いていたの仕事は、今であった少女からはとても想像できない内容であったので。












新しいボスのジョルノ・ジョバァーナは基本的には平和主義な人間のようだった。ゴリラとは全然違うし、腰が低く紳士的でブチャラティも信頼してしまうの、すっごくわかる。ミケランジェロの彫刻のように美しい顔をしていたわ。私もすぐ好きになっちゃった、薔薇ももらったのよ。そう話し嬉しそうなのはだけで、周りは全体的にどんよりしている。特にメローネあたりなんかは「がまた他の男に知られた」なんて言って突っ伏してうじうじしていた。

「そんな顔しないでメローネ、私の居場所はここだけなんだから」
っ…!」

突っ伏したメローネの頬を小さな指がつん、とつつくと、とたんにその指を捕まえようとメローネが起き上がる。その勢いに驚いて後ろにひっくり返りそうになったを通りがかりに支えたのはギアッチョで、あぶねえ!とメローネにげんこつを入れた。それをみてにぎやかに笑う室内はギャング組織の暗殺チームと言われても誰も信じないかもしれない。

チリリ、という電話の音が笑いを遮った。

「あ、私でるわ」
「いや、いい」

1番近くにいたプロシュートが電話をとる。ああ、ああ、といくつか相槌を打ってから、目でを呼ぶ。

「私に?」
「ボスから」

「ジョルノ?よ!どうしたの?」

うん、うん、はい、え?誰?あー、うーん、わからないわ、でもおっけーよ。じゃあ駅で、はい、はい、と受話器を置くと、は「明日のお仕事にブローノの部下の人を同行させたいんですって」と言った。

「は?の仕事が信用できないってこと?」とまず突っかかったのはメローネだ。

「ううん、私の仕事を見たことがあるのってみんな以外だとブローノだけなんだけど、ジョルノもちゃんと見ておきたいんですって。でも明日は都合が悪いので、ミスタっていう人をつけたいんだけど、って」
「今日いた奴か」
「いたかしら?覚えてないわ」

うーん、と首をかしげる様子は本当に覚えていなさそうだ。メローネはまだ不満そうだったが、まあいいやと言った顔でその話を打ち切った。



翌日、の仕事に付き添うのは俺しかいないよねと準備をしたメローネは、の手を引いて家を出た。ごく普通のオシャレなお兄さん、みたいな服装のメローネは少し大きめのトランクを抱えている。は足首まで隠れる長さの真っ白なワンピースを着ていて、兄妹でお出かけするごく普通の家族のようだった。

待ち合わせの駅にいくと、ミスタは向こうからを見つけて声をかけてきた。
はじめまして、というに昨日会っただろ!と強く言うとメローネの鋭い睨みがとんでくる。

「そうだったかしら?ごめんなさい、ブローノがいるとブローノしか見えないのよね。あらためまして、です。よろしくね、ミスタ」
「…メローネ。に手を出したら許さないからな」
「ミスタだ。よろしくたのむよ」

なんかめんどくせえ奴らだなあ。というのがミスタの印象だった。

1時間ほど電車に揺られてたどり着いた町は人影もまばらなさみしい町だ。事前に受け取った地図だと、ここからさらに30分ほど歩いていかなければならない。しかし、この女手ぶらじゃねーか。本当に仕事になんのかよ?と思うがすぐにスタンドのことを思い出す。まあ、メローネが持っているでかいトランクの中身が無駄なものばかりとも思えないので大丈夫なんだろう。

「遠出って久しぶりだわ!はやくいきましょ!」
「へいへい、遠足じゃねーんだから落ち着けよ」
「…になれなれしくないか?」
「は?知るかよ」
「楽しいお仕事にわくわくするに水をささないでくれないか」
「お前、のことお姫様か何かだと勘違いしてるみたいだな」
「勘違いってなんだよ。僕はをプリンチペッサだと思っている」
「…そうかよ」

そんな2人の会話を気にも留めないは、「うふ、うふふ」と楽しそうにスキップなんかしている。
これからの仕事を本当にわかっているのか、真っ白なワンピースを揺らす後姿は随分と楽しそうだ。

「メローネ!はやく、私の荷物もってきて!」
「はーい!」

どんどん先を行くに呼ばれて駆け寄っていく。兄妹にしかみえねーな。これから人を殺しに行く2人の姿とは、とても。

「あ、あそこじゃない!?メローネ!あけてあけて、はーやーく」
「はーいプリンチペッサ、何がいいの?」
「ん〜っとね」

もうあたりに民家はなかった。花と木とそれから海が遠くに見えて、一般的に言えば「良い景色」なんだろうがあまり興味がない。
ぽつんと小さく遠くに見える小屋は事前に渡されていた写真の通りで、そこが町に流通する麻薬を栽培・保管していた倉庫として使われていた場所らしい。ターゲットはあそこに金と麻薬をもって立てこもっているのだと聞いている。ここまで結構入り組んでいたが、はまったく迷わずここまで歩いてきた。昨日一瞬呼んだ資料を全部覚えたというのは本当らしい。それはすごいな、と素直に認めるところだ。

小屋を見つけてからより一層はしゃぎしているを眺める。あれでは無邪気な小学生だ。
メローネに開かれたカバンを覗き込み武器を選ぶ様子は、まるで露店のアクセサリーを選ぶ子どもとかぶる。

「多くて10人、たぶんそれ以下…」
「散弾銃」
「おもたいのよ」
「じゃあナイフ」
「あ、わたし、それすき」

ミスタは2人と距離をあけてその様子を眺めている。とかいう小学生が暗殺チームのナンバーツーだと聞いて、最初は鼻で笑ってやった。しかしブチャラティの信頼も厚く、その話を聞いたジョルノもそれを信じているのなら口を出すわけにはいかない。と思っていたが、昨日会ってますます不安になってしまった。本当にできんのかよ、あれで、と散々ぐちぐち言ったら、「見てきたらいいんじゃあないか」とブチャラティが言ったのだ。ちらりとジョルノを見ると、「僕もいつかは見ておきたいが、明日は用事がある。せっかくなら同行したらどうです」なんて言うので、うーん、じゃあ、と連絡を取り付けた。待ち合わせ場所と時間を告げられ、ブチャラティが「明日のミスタの夕飯は不要だな」と何やら不安になることを言っていたな。

「んなこといったってなあ」

手に持つものがナイフとか銃とかそういうのだということを除けば、あの2人の雰囲気は仲の良い兄妹か、まあ、犯罪急に歳の離れたカップルだし、無邪気に花畑でも走り回るのが似合いそうな容姿をしているのだからやっぱり腑に落ちない。

「ミスタ!おいてくわよ」
を待たせないでくれ」

はいはい、と頭をかいて歩き出す。まったく付き合ってられない。
が油断させてメローネが刺す。そんな感じなんだろうな、どうせ。

と思った予想は大きく裏切られた。

「ん〜、8人かなあ」
「は?」

スキップしながら鼻歌を歌って、ふわふわする白いワンピースにナイフを持つ少女は何とも異様だ。家まであと50mというところでピタリと立ち止まると、振り返ってそういった。

「おうちの中だよ。メローネはどう思う?」
と同意見かなあ。まだこっちには気づいてないね」
「うふふ!当たりかあ」

この距離から家の中の気配を感じとり、人数と殺気を把握する。暗殺チームっていうのはこういうのが得意なのか、気味の悪い奴らだな。と思ったのをメローネは感じ取ったらしかった。

「これなら僕らの出る幕はないよ、ミスタサン」
「あ?」
1人で十分だから。僕らはこの辺で見てよう」

、と声をかけると、ちょっとどきっとするような笑顔でくるりと振りかえる。そんなに何が楽しいのか、もう満面の笑みという感じだ。

「この辺で待ってるよ。1人でいける?」
「うん!でも危なかったら助けてよ、メローネ」

頼りにしてるんだから!と言うと、立ち止まった俺らに「すぐもどるよ!」といって駈け出してしまった。ジョルノもブチャラティも大丈夫というしメローネも大丈夫と言う、噂では暗殺チームのナンバーツーと言われているんだからまあ、当然大丈夫なんだろうか。姿かたちから受ける印象が不安を拭い去ってくれないのがどうにももどかしい。
まるでお姫様みたいに電車のなかでも道中も世話を焼いていたメローネが微笑ましそうに手を振るんだから、本当に、本当に大丈夫なんだろうけども。

少しまぶしい日差しから逃げるように大きな木に寄り掛かるころにはは家の前にたどり着いていて、どうやって侵入するのかと思ったらごく普通に扉をノックした。

「!?お、おいあいつ」
「いいんだよ」

馬鹿じゃねえの、と駈け出そうとした俺にのんきな声色でストップがかかる。

「小学生がきたって、迷子かなんかだとしか思わないだろ」
「…まあ、たしかに」

油断させて隙を狙う。子どもにありがちな戦法だ。
家に入ってしばらくしたが、何の物音もせず人が出てくる様子もない。静まり返ったあたりはあの中で何が起こっているかなんてまったく気づかないような平和な空気だ。

「15分だね。そろそろ見に行こう」

歩き出すメローネの足取りは軽く、まったく心配なんてしていなさそうだ。家の前にたどり着いても中からは物音がしない、と思ったが、よく耳を澄ませると木でできた家がきしむ音と水音が聞こえる。

、入っていい?」
「あっ、メローネ!ごめんね、遅かった?」
「ううん、いいよ」

先に扉をあけたのはメローネで、中から明るい声が聞こえる。開いた扉の向こうからはさわやかな空気を全て塗りつぶすような血なまぐささが漂ってきて、仕事は終えたんだなという気持ちで仲を見て絶句した。

「な、なんだよこれ…」
「ふふ、裏切り者ファミリーの丘のおうち、ってどう?」

どう?と褒めてもらえると信じて疑わない顔で出てきたは髪も服も顔も全身のほとんどが血で濡れて真っ赤になっていた。ふわふわと揺れていたワンピースは血をすって重くなりすっかり身体に張り付いて、裾から血液が滴る。
その姿に寒気を覚えたが、家の中はもっとひどかった。あまりにも異様な光景に、死体なんて見慣れているはずのミスタが吐き気を催したほどだった。
部屋中壁にも天井にも飛び散った血液、全員が頸動脈を一発で抉りきられて事切れたことがわかる遺体、そしてその遺体が6人、今にも食事をするのではないかという様子で食卓テーブルにつき、腹から内臓を引きずり出されナイフとフォークを握らされ座っていた。そのテーブルの上にはおそらく2人分(本当に中にいたのが8人であれば)遺体が細切れになって皿に盛りつけられていて、その周りに血濡れの麻薬と現金が散乱している。

「これはまた派手にやったね。ディ・モールト芸術的だよ」
「うふふ!ありがとうメローネ!」

メローネが1番ほめてくれるからだいすきよ、と言うとメローネは嬉しそうに屈んでその頬にキスをする。それにもこたえていて、なんか2人の世界を作り出した。なんなんだこいつらは、そもそも突入から15分で「ちょっと遅い」と思って見に来たと思ったがそれは違うのか。突入1分で全員を殺し、あとは部屋をこの状態にするのに使っていたとでもいうのか。

「ミスタ、大丈夫?なんだか顔色が悪いわ」

気づかないうちに冷や汗をかいていたらしく、心配そうに血まみれのが覗き込んでいた。頬に振れようと伸ばされた手をあわてて避けると、「なんでもねえ」といって外にでるしかなかった。ブチャラティの言ってたことがわかった。確かに、かえって夕飯を食べようとしたところでのどを通るかわかんねえ。

の芸術が分からないやつなんだ、放っておくといい」

しばらく、中でがさごそと音がしていた。もう覗き込む気にはなれず扉の横によりかかる。これは見張りの仕事であって、あまりに気味が悪いのでひるんだとかそういうことではない。すると、真っ黒なワンピースに着替えたがでてきた。拭いたのか、血濡れだった体もきれいになっている。

「さ、かえりましょ。メローネ、後片付けおねがいしておいてね」

手なんかつないで、行きと同じように楽しそうにしているが先ほどの惨状を作ったとは思えない。でも紛れもない事実だというのを目の当たりにして頭を抱えながら歩き出した。必要以上に遺体をもてあそんだりするのは好まない、とミスタは思っている。だからあまりにも酷い先ほどの惨状を脳内から必死に追い出そうと頭を振った。

ネアポリスにたどり着いてジョルノの部屋に仕事の報告に行く間もとメローネの2人は恋人のように手をつないだままだった。
「ジョルノ!今後の計画や手伝った人、あとこれから高跳びに手を貸す予定だった人のリストもあったわ。いりますよね」と血でよれよれの紙をいくつかとりだして、そんなことまでしていたのかと少しだけ、ほんの少しだけ歓心する。そしてメローネから受け取ったトランクを開いて、「これを処分してほしいのだけど」と取り出したものは、行きに着ていた血濡れのワンピースだった。

「随分と派手にやったんですね」
「えへへ」

ジョルノは「ほめたわけではないんですけど」と小さなため息をつくと、そのワンピースを薔薇の花束に変えた。

にお似合いなのは血のように真っ赤な薔薇、ですかね?」
「ジョルノ、素敵!かっこいい!」

血濡れのワンピースから生まれた薔薇の花束を受け取ると、はグラッツェ!とジョルノのほほにキスをした。

「じゃあ、また何かあったら言ってね。ジョルノのためならなーんでもするから!」

またね、と去っていく2人は、やっぱり恋人のように手をつないでいた。

「ミスタ、どうでした?」
「遺体を見て初めて吐きそうになった」
「彼女の悪癖なんだそうですよ。だから、ああなってもいい相手の仕事しか回せないし、かといって仕事の間隔をあけるとどんどんひどくなるとか」

腕は本当に優秀なんですけど、と血濡れの紙束を振り苦笑するボスに、やれやれとあたまとふる。
暗殺チームというのはまったく理解できん。