私たちが平和に暮らすためにはどうしたらいいんだろうね。ピタパタちゃん、どう思う?こてんと首をかしげて、わかんないって表現する小さい生き物はとっても可愛らしい。最高に可愛い。こんなに可愛い生き物を危険にさらす可能性があるんだなあって思ったらなんだか悲しくなってきた。

パッショーネというのは聞き覚えがある。平和ボケした一般人の私でも聞いたことがあるんだからそれはもう大きな組織なんだろう。そこに加入なんてしたら最後、私も人殺しをさせられたり、何か従えないことがあったら殺されたり…とかするのかもしれない。それは嫌だ。けど少なくともスタンド使いである以上何かしらのもめ事に巻き込まれる可能性があるなら、1番身近で良心的で頼れるのはその組織しかないんじゃないだろうか。

考えながら職場からの帰り道をとぼとぼ歩いていると、1匹の猫が足元をすり抜けた。バランスを崩して転びそうになる。おっとっと、ってふらついた私はもう尻餅をつく覚悟はできてたんだけど、背中を何かに支えられて姿勢を戻した。

「大丈夫か?嬢ちゃん、俺の猫が悪かったな」
「あっ…あ、いえこちらこそ、すみません重たかったですよね」

たくましい腕で支えてくれた男性はそりこみの入った坊主頭で、腕の中でいつの間にか抱き上げられた猫がにゃあと鳴いた。私のするどい直感が告げる。このいかにもカタギじゃない雰囲気、まともじゃない服装、今までの傾向から言ってまず間違いなく…って思った瞬間、私が感じた危険を察知したピタパタちゃんはピカリと眩しい光を放つ。ナイスピタパタちゃん。ぽんっという音を合図に産まれたあたらしいピタキャラさんが他の子たちと親しげにハイタッチするのを見て、私の疑念は確信に変わった。この人も暗殺者だな、って。

「…しょーがねえなー」

いかついけれど、今までに会った誰よりも話は分かりそうな顔で、ホルマジオと名乗ったギャングは笑った。





「お前がか。いろんな奴から話は聞いてるぜ」
「はあ…」

例によって暗殺公園のベンチで話す私たち。ピタキャラちゃんたちは猫が気に入ったらしくて猫にすり寄るけれど、猫はピタキャラちゃんが見えないなりに気配は感じるらしく狼狽えている。可愛いと可愛いで最高に可愛い。ホルマジオさんもなんだかデレデレしている。こわいんだけど、なんだか憎めない感じの彼は自分のピタキャラをつまみあげるともの珍しそうに眺めて、それから猫の上に放った。ピタパタホルマジオくんは猫の背中にぺたりと張り付いてほんわりした顔を作っているから、この人は本当に猫が好きなんだろうな。

「プロシュートの誘い断ったらしいけどよォ、見た感じ嬢ちゃんほんとに戦闘力のカケラもなさそうだし早いとこ覚悟決めてラクになっちまった方がいいんじゃねーの?」
「そんな安楽死を勧めるみたいな…」
「おっと、言い方が悪かったな」

豪快に笑うのは見ていて気分がいい。裏表のない人なのかもしれないと思った。自分を取り繕うっていう気持ちがないのかもしれないね。なんだかいまいち表面を取り繕ってるみたいだったメローネさんとか、穏やかに話す気持ちの足りてなさそうなギアッチョさんとか、めんどくさそうなイルーゾォさんとか、ギャングとしての自分のキャラクターを確立させていそうなプロシュートさんとか、あとなんかペッシさんとかとはわけが違う。まあ、ホルマジオさんみたいなタイプが1番えげつないことしそうなイメージはあるけれど。

「俺らもよお、別に意味もなく人を殺したりしてるわけじゃねーんだよ。ちょーっと組織を裏切ったり不利益になる奴をこう…ちょちょっとな?やってるだけで」
「一般人の私からしたらそれがとてつもなく恐ろしいんですけどね」

ピタキャラちゃんたちも随分と大所帯になって、みんなが一緒に遊ぶと言うよりは仲良しグループができているみたい。相変わらず一緒にくっついているのはちゃんとメローネちゃんとギアッチョちゃんの3人で、プロシュートくんはペッシくんと、1人でいることが多かったイルーゾォくんにはホルマジオくんが寄って行ってる。この2人仲がいいんだなあ。物騒な話を聞きながらどこかに意識を飛ばすように考えていたら、ホルマジオさんの話を聞いていなかった。

「…でな、きいてるか?」
「あっすみません。全然聞いてませんでした」
「嬢ちゃん、わりとずっと思ってたんだけど肝が据わってるっていうかマイペースっていうか…」
「ほめられると照れますね」
「ほめてるように聞こえたか?」
「いえ、全然」

そういうところがなあ、っていうホルマジオさんは呆れた声をだしているけどやっぱり笑顔だ。うーん、なんだか安心感がある。最初に出会ったのが彼みたいな人だったら良かったのになあ。

「まああれだ、プロシュートの奴は上からきたから反発したくなったんだろうけど、別に仲間になんかならなくたっていいんだぜ」
「あら、そんな話は初耳ですね」
「だと思ったんだ。たとえば俺らのアジトのそばに部屋を借りるとかよォ、そんなんでも安心感は違うだろ?」
「…なるほど」

それは確かに名案だ。ギャングなんかになるつもりはないけれど危険は避けたい。力は貸さないけど有事の時は助けてね、なんて都合の良いことを言ってるなあとは思うけど私の望むところは結局それだったから。そんな案があるのならもっと早く示してほしかったけど、そんな一方的に与えるだけの選択肢は確かにプロシュートさんは好きじゃなさそうだなとも思った。

「まあ、慈善事業ってわけじゃねーけど不用意に一般人を俺らの争いに巻き込まないようにするっていう最低限のジョーシキはあるってわけよ」
「ははあ、私はメローネさんにもギアッチョさんにもイルーゾォさんにも殺されそうでしたけどね」
「あいつらは別」

…やっぱり危険じゃないか?なんて言うのは話の腰を折るからつっこまないでおくよ。

「まあ守ってやりたいのはお前っていうかそのちびっこ達だけだけどな。お前ごとそいつらが捕まったら俺らはなすすべもないわけだし、お前が俺たちにおとなしく守られてくれるっていうなら一応Win-Winではあるだろ」
「ホルマジオさんはお話が上手ですね。それもありかもって思えてきます」
「お、そうだろそうだろ。俺は情報を引き出すのが最もうまいって言われてんだ」
「……うーん、一番怖い」

素直な感想を述べたら楽しそうに笑ってた。悪い人じゃないんだろうけど、悪い人じゃ…悪い人か。うん、なんて言うんだろう。なんか、ギャングやっぱりめんどくさいよね?けど、私はこの子たちを守ることを今は最優先に考えたいから。

「…その話、もう少し詳しく聞かせてもらえませんか?」
「おっ!いいねえ、話のわかる女は好きだぜ」

ホルマジオさんはさくさくと連絡先を交換して、うちのリーダーにも話しておくから日を改めようぜと帰っていった。あの人たちのリーダー、と思うと恐ろしくて仕方ないんだけど、でもなんかもう、なるようにしかならないもんね。せめてどうか、話の通じる人でありますように。


引っ越しとか考えますか?



(ピタパタホルマジオくん、ほんとにちゅ〜るでいいのかな…)