ごろりと寝返りをうてば、目の前には気持ち良さそうな寝顔。ほんと良く寝るなあなんて思ってほっぺをつねってみても、全然起きる気配はない。今日はお休みだから、もう少しくらい寝かせてあげてもいいだろう。宇都宮を起こさないようにそうっと布団を出ると、台所へ向かいコーヒーをいれた。

猫舌な自分のためにぬるめに入れたコーヒーを片手に寝室に戻る。宇都宮の眠るベッドに腰かけて、邪気のない寝顔にくすりと笑みをこぼす。


起きているときは、こんな素直そうな顔全然しないのに。

いつも笑ってるけど、うそくさいったらないんだから。


心の中でぼそりと呟いて、短い髪の毛にそっと触れる。前髪を持ち上げて分け目を逆にしてやれば、高崎にそっくりだ。しかしいくら似ていても、絶対に間違えたりしない。似ているだけであって、それは同じということではないのだ。前に一度高崎のふりをした宇都宮にやたらと絡まれたことがある。みんなはころりと騙されていたけど、あんなの私が気づかないはずない。そう簡単に宇都宮を判別できないほど、半端に彼が好きなわけじゃないのだ。

いつも意地悪ばかりで、高崎なんか特にいじられていて可哀想になることもある。埼京にいたってはからかわれた腹いせとばかりに高崎とダブルで絡まれるのだからご愁傷様、としか言いようがない。意地悪だとかつかめないだとか腹黒いだとか(そこまでは言ってないかもしれないけど)、とにかくみんなの宇都宮への評価はそうそう良いわけではない。

それが、私には不思議でたまらないのだけど。

だって宇都宮は宇都宮で、こんな性格であることとかすべてひっくるめて彼なのだから。


「うつのみやー、おきて」


言葉とは裏腹に小さな声で呟くと、まったくの無反応。もう一度宇都宮、と少し大きくした声で呼べば、僅かに身をよじった。こうして眠っていれば子供のようなのに。

けれど誰かにこれを教えようなんてことは思わない。実は寝起きが悪いとか、実は一人では眠れないとか、あとあと他にもたくさん。

他の誰も知らない彼のこと、私だけが知っている彼のこと、独占したいと思うのは我儘なんかじゃないでしょう。

休日にこうしていると、無意識のはずなのにきゅ、と私のて手を握る大きな冷たい手とか、寝惚けてかすれたような声で私を呼ぶ声とか、そんなの私だけが知っていればいいこと。


「だいすきだよ、うつのみや」


僕も、といつの間にか目覚めていたらしい宇都宮から不意に返事が返ってくることだって、私だけの特権なんだ。









[狸寝入りの王子様]