気がついたらそこにいて、それからずっと一緒だった。がいない生活なんて考えられないし、それはお互い様だと思う。計画から着工までに随分と時間のかかった僕は、その着工までの間に当初とは違うさまざまな変更を加えられた。それは些細なことから大きなことまで多岐にわたっていたが、中でももっとも大きかったのが。たった1駅分のために作られた僕の支線だ。

同時期に建設されたから年齢だって大して変わらない、当然見た目だってそっくりなのだ。しかし男女差はある。最初は子供だしいいよね、と同じ部屋を割り振られたものの、いい加減成長してしまうと同じ布団で眠るのには無視できない抵抗があった。

嫌なわけじゃない、向こうも嫌がるわけじゃない。ただ僕だって一人の男の子なわけだし、いろいろと問題だってある。そもそもの原因は、を好きになってしまった僕にあるのだけど。だから今のような状況はとても困る。いったい何の試練だろうとため息をついてみても、それを呆れととった目の前のはびくりと肩を震わせる。



「ごめんなさい、不注意でした。お願いだから呆れないで…」



ベッドに座る僕の前で、絨毯に膝をついて頭を下げる。膝に頭を預け俯いているため表情はわからないが、おそらく酷く落ち込んでいるのだろう。何度目かわからないため息を吐く。



「うん、もういいから、寝よう?どうせ今朝のことでも気にしてたんでしょ?」

「う、うん…。ねえ、やっぱり、ぎゅってしてくれないの?」



見上げた瞳は潤んでいて、またそうやっていらない挑発するんだもんな、との目を覆う。わ、と小さく声を漏らしたに気づかれないように眉根を寄せると、吐きだしそうになったため息をぐっとこらえた。



「わかったから、泣かないでよ。ほら、おいで」



後ろに倒れベッドに転がると、もそもそと上がってきたが当たり前のように僕の腕に頭を乗せる。仕方ないなあ、と小さな体を抱きしめてやれば、ありがとう、と呟いてすぐに寝息が聞こえてきた。腕の中にすっぽり収まるサイズで、子供のように高い体温。いつもの距離に何処か安心しながらも、やはりこの状況は生殺しだと思う。





今朝のこと、うっかり卑猥な夢を見てしまった南北は柄にもなく目覚ましの鳴る前に飛び起きた。自分の腕の中にいるを起こさないようにそっと、しかし出来るだけ早くベッドを抜け出すと、真っ先に洗濯機をまわす。こんなことは珍しいわけじゃなく、原因は腕の中で眠るに間違いはなかった。

好きな女の子を抱きしめて眠って、そういう気分にならない男はいないと思う。だから言ったのだ。今日からは別々に寝よう、と。その言葉に他意はなかった。ただ、はっきり理由を述べないことは少なからず誤解を招いた。瞬間潤んだの目を見ることができるに顔をそむけると、は寝巻のまま部屋を飛び出して行った。朝礼にも来ず、しかし運行状況に乱れはないから仕事はしているのだろうと安心していたお昼時。

の路線が乗客トラブルで遅延すると連絡が入った。トラブルを起こした乗客は若いカップルらしく、別れ話がもつれて口論となりついには手がでたらしい。仲介に入ろうとしたはそいつらの会話を聞き、必要ないだのもう好きじゃないだのを聞いてしょぼんと黙り込んでしまったそうだ。

つまりには、今朝の僕の言葉は拒絶として伝わったということ。僅かな責任を感じながらも、じゃあどうしたらいんだと煽りをくらって遅延したことも手伝って相当イライラしていた。だから帰ってきたが大量の報告書を抱えていたことも疲れ果てたようにぐったりしていることも気に留めず、つい言ってしまったのだ。支線のくせに僕まで遅延させるなんてどういうこと、なんて心にもないことを。

そうして一気に涙腺が決壊したかと思ったは頭を振ると、正座をして「ごめんなさい」と他人行儀な謝罪を口にした。呆れないで、と不安げに僕を見るその目を見ているとイライラはすっとどこかへいってしまい、そのかわりに酷い罪悪感にとらわれた。





結局は僕が我慢すれば良いだけでしょ、なんて思いながら気持ちよさそうに眠るの髪をぐしゃりと掻き雑ぜて、ぎゅうと抱きしめる腕に力をこめる。いつか、も僕を好きになってくれる日がきたらいいなんて思いながら。








[我慢できない]