やる気がなくて不真面目。上官の前では取り繕うみたいだけど所詮は付け焼き刃、普段の行いや態度はとても隠しきれない。兄さんじゃないけど、JRの名を汚すような鈍行は必要ないと思う。そう秋田に言ったら、ミロスはほんと東海道に似てるね。と笑われた。…あんなのに似たくないのに。



「姉さん、今日兄貴が遅延って本当?」

「ほんとほんと。相当機嫌悪いから、よろしくね」

私帰らないから、と言うと、東海道(本線)はぐったりとうなだれた。気持ちはわかるけど、私だって不機嫌な兄さんの相手なんてしたくない。そんなことするくらいなら野宿の方がましだわ。

「大丈夫よ、遅延っていっても30分くらいだから。払い戻しがない分良いと思いなさい」

じゃあ私行くから、と未だに顔をあげない東海道の肩をぽん、と叩き踵を返す。そもそもこんなときに限っていない山形がいけないのよね、なんてぼそぼそ独り言を言いながら歩いていると、ホームの階段に差し掛かったところで足を踏み外した。

ああバカだな、よそ見なんてするから。でもよかった、今日は非番だったから私服。JRのホーム階段を転がり落ちた上官だなんて下の子にしめしがつかないもんね。痛くないといいな。

冷静にそんなことを考えていたら、誰かに強く腕を引かれ、落ちそうになっていた体が元の位置に戻った。

「大丈夫か?ちゃんと前見ろよなぁ」

「へ…」

お礼を言おうと振り向くと、そこにいたのは私の嫌いな鈍行路線武蔵野。何、なんでこいつに助けられなきゃいけないの?むかつく。

「ちょっと、離してよ!」

「うお!」

捕まれた腕を勢いよく振り払うと、武蔵野は驚いたように両手をあげた。なんだぁ?なんてやる気のない話し方をするのは、私と面識がないからだ。上官だと知ってたら即座に直立するんだろう。

助けてやったのに、と不満げな顔をしていた彼は、私の睨むような目を見ると

「ん、まあいいや。怪我ねーなら心配ないだろ」

と言うと、次からは気をつけろよ、と私の頭をぽんと叩き去って行った。と同時にぼんと顔が赤くなる。何、なんだこれ。私あいつのこと嫌いなはずなのに。

…でもあいつ、私のこと助けてくれたし。心配してくれたし。もしかしたら、もしかしたらほの少しだけ良い奴なのかもしれない。

兄さんの遅延なんてすっかり頭から飛んでいた私はそのままご機嫌で家に帰り、見事東海道と兄さんの不機嫌に巻き込まれたのだった。





[きっかけはほんの些細なこと]






「こんにちは、鈍行の武蔵野線」

「……っ!じょ、上官…」