【悪の娘 処刑】
(レン、しなないで…!)
誰かに呼ばれたような気がして、レンは顔を上げた。

「…無様ね」

赤き鎧を纏った女剣士がいう。やはりそうだった。反乱の中心が彼女であることは、薄々感づいていた。

「なんとでもおっしゃいな」

「その衣装、全然似合ってないわよ」

「……なんのことだかさっぱりだわ」

「あんた…!」

メイコががしゃんと牢屋をたたく。彼女はとっくに気付いているのだ、捕えられたのが悪の娘ではないことに。自分が10年間育て想い続けた少年が、自分の姉ををかばっていることに。

「もうすぐ処刑の時間だ」

「…そう。ほら、行くわよ」

部下らしき男は簡潔に用件を告げると出て行った。メイコは牢屋のカギをあけレンを呼ぶ。

「バカね」

「…」

「ほんとバカだわ」

「…たとえ」

「え?」

レンはどこかさみしそうな顔をしていた。

「たとえ世界のすべてがリンの敵になったとしても、僕がリンを守る。だから」

「レン…」

「だから、リンには笑っていてほしい」

(君には、笑顔が似合うよ)

民衆がざわめく。処刑台には綺麗なドレス、かつては自分のものだったそれを着たレンがいた。もちろん、民衆にとって彼はリン、悪の娘なのだが。早く殺せ、などと野次を飛ばす民衆。それはすべて自分に向けられた言葉だと思うと、その場にいるだけで吐き気を催すほどの恐怖に襲われた。だがそんなものは、 これから行われることへの恐怖にくらべたらどうってことない程度で。

レンは堂々と処刑台に立っていた。民衆などには目もくれない。教会の鐘が鳴る。一瞬、レンと目があった気がした。かすかに笑ったように見えた。錯覚なのかなんなのか、もうわからない。

「あら、おやつの時間だわ」

処刑の音もリンの悲鳴も、歓声にかき消され誰にも届いていなかった。