刹那の幻に過ぎないから 人は幸せを幸せと感じるのだろうか
「戦う意思のあるものは私についてこい!」

どうして?どうして緑の国が燃えたの?やったのはうちの国ってどういうこと?レンが悪の娘を想ってるのは知ってる、けどそれでもあまりにひどい…。姉のために国を一つ滅ぼすなんて間違ってる!ごめんねレン、でも私許せない。ミク…

レンと部屋にいると、急に外が騒がしくなった。何を考えているのかしら、とレンに話しかけると、レンはどこか険しい顔をしていて聞いていないようだった。外を見ようと立ち上がると、レンが手をつかんで行くなと言っているようだった。どうしたの、と聞こうとした声は、乱暴に部屋に駆け込んできた音でかき消された。

「レン!早く逃げろ!」

「無礼者!何事…「うるさい!!」

あまりの大声に、びくりと震えてしまった。すぐにレンが前に出て、私をかばってくれる。

「何事?」

「国民が反乱を起こした!おまえも早く逃げろ!」

それだけ言うと、そいつは部屋を出て行った。

「え…え?どういうこと…?」

王女は落ち着きなくおろおろしている。それもそうだ、突然反乱なんて言われてもどうしようもない。逃げるしかできないのだから。それにしてもなんだ、この城の家臣たちは。緑の国では姫を最優先に逃がそうとしていた。それなのにどうしてリンだけ…

「王女はどこだ!悪の娘を探せ!」

遠くから怒声が聞こえた。リンがびくっとする。ああ、おびえてる。僕は守らなきゃいけない。どうしたらリンを守れる、どうしたら、

「レン…」

不安そうな顔で僕を見つめるリン。自分と同じなのに可愛いと思うのはおかしいだろうか。同じ、そうだ。僕らは双子だ。

「リン」

「なに…?」

「僕の服を貸してあげる」

え、と声を上げるリンに構わず、僕は来ている服を脱ぐ。それをリンに渡して、クローゼットからリンのドレスを引っ張り出す。

「レン、どういうこと!?」

「それを着てすぐに逃げて」

「いやよ!レンがいないと私…!」

「いいから!早くして!!」

思わず大声をたしてしまい、またびくりと体を震わせたリンに悪いと思った。でも今はそんなこと言っていられない。あまりの剣幕に驚いたのか、リンはゆっくりだが着替え始めた。そのリンの後ろに回り込む。自分の髪をまとめていたゴムをほどいて、リンの髪をまとめる。

「レン、どうして私が守られなきゃいけないの?」

「僕はリンに生きてほしい」

「私はレンに生きてほしい!なんで私が守られなきゃいけないのよ!私がお姉ちゃんなのに!!

自分のドレスのリボンを結んでいた手が緩んだ。今この子、なんて言った?

「私がお姉ちゃんなんだよ!?忘れてるわけないじゃない!レン、お願い生きて!」

リンの声はかすれていたなにを言っているのかよくわからないほどに。

「大丈夫、僕らは双子だから」

「きっとだれにもわからない」

「いやよ!そんなの嫌!!」

その時、また廊下で声がした。今度はさっきよりも近くで。もうだめだ。早く逃がさないといけない。覚えてくれていただけで満足だ。それ以上はもういらない。幸せだった。

「レン、命令よ」

「レン?何言って…私はリン、」

「逃げなさい。王女は僕だ。…姉の言うことが聞けないの!」

バン、と大きな音をたてて扉が開いた。入って来たのは家臣の一人で、リンのふりをした僕には目もくれず、僕の格好をしたレンの手を引く。

「まだこんなところにいたのか!おまえまで殺させるぞ!」

リンが手を伸ばした。まっすぐ、僕の方に。しかしその手は虚空をつかむ。生きて、そういったのは、聞こえたかどうかわからない。

「見つけたぞ・・・!」

「この、無礼者!」