りんかいが居ない。

今の時刻は12時30分。待ち合わせは12時ぴったり。珍しく遅延もトラブルもなしに待ち合わせより数分早く来た埼京だったが、いつもなら5分前には必ずやって来るりんかいが今日はもう30分も現れない。もしかしたら何か事故でもあったのかもしれない、と不安になったが、近隣の鉄道の運行状況くらちゃんと把握している。りんかいは通常運行だった。他に思い当たることといえば待ち合わせを忘れている、だったが、りんかいに限ってそれはない。りんかいは絶対に約束をやぶらない。どうしようかと途方に暮れていたら、退屈そうに歩くガラの悪い水色を発見した。



「ゆりかもめー!!」

「あん?」




大声で名前を呼べば、めんどくさそうな返事が返ってきた。ゆりかもめはりんかいといることが多いから、何か知っているかもしれない。



「何だ、JRのチビか」

「ねえ、りんかい知らない?」

「・・・ああ。あいつと待ち合わせ?」

「うん・・・全然来なくて」



もう30分も待ってるんだ。本当は早目に来たから、かれこれ40分はここにいる。しょんぼりとそう伝えると、ゆりかもめは面白そうに口端をつりあげた。



「そうだなあ、教えてやってもいいぜ」

「知ってるの!?」



知ってる知ってる、とゆりかもめは珍しく楽しそうだ。その時点で何かしら疑問を持つべきなのだが、埼京は気がつかない。



「その代わりさ、お前あいつの何処が好きなのか教えろよ」

「・・・えっ?」



きょとん、と首をかしげる。にやにやと、見上げているのに見下されてる気分になるゆりかもめの視線を真っ直ぐに見つめ返し、どう答えようか考える。

りんかいの好きなところ。僕に優しくしてくれるところ。いつもにこにこしてるところ。たまにからかわれるけど、宇都宮や高崎と違って意地悪すぎないところ。どれをとっても、いまいちしっくりこない。だって、好きだと思ったから好きなのだ。りんかいのここがどう好きだから、なんて考えて好きになったわけじゃない。ただ気がついたら好きになっていて。



「理由なんてないよ」

「は?」



今度はゆりかもめが首をかしげた。てっきり「優しいから!」とか馬鹿な答えが返って来ると期待していたのに。なのにわからないって。予想しなかった答えに多少困惑の色を見せるゆりかもめに、埼京が続けた。



「そんな理屈とかじゃなくてさ、ただりんかいの隣が一番落ち着くんだ」

「・・・わっかんね」

「ゆりかもめはりんかいのこと好き?」

「別に」

「ええ、嘘だあ」

「うるせー」



嫌いならいっつも一緒になんていないよ、と埼京は言う。それはそうだ。ゆりかもめだってりんかいは嫌いじゃない。ただ何もかも見透かしたような態度が気に触ることは多々あるけれども。頭が良くて回転が速いから、話していて楽だとはよく思う。だからこそ、こんな頭の悪そうな奴と付き合っているのが不思議でしょうがなかったりもするのだ。けれど、もしかしたら思っているよりこいつは馬鹿じゃないのかもしれない。



「あ、りんかい!」



ふ、と顔をあげれば、自分の向こうに嬉しそうに声をかけていた。その視線と呼んだ名前に、りんかいが来たのだとわかる。本当は自分はりんかいに頼まれてここに来た。ちょっと会議があるから30分くらい遅れる、と埼京に伝えてほしい。いつものようにうっすら笑みをうかべてそう言ったりんかいに、まかせろと言って出てきた。最初から伝える気なんてなかったけれど。

りんかいの元へ走ろうとする埼京の手を思わずつかむ。え、と立ち止まった埼京にどう言い訳しようか考えて、めんどくさくなってすぐに手を離す。



「りんかいは好きじゃねーけど、お前は嫌いじゃない」

「・・・ゆりかもめ?」



音がしそうな勢いで赤くなった顔に、珍しいことがあるもんだと埼京は目を丸くした。



「ありがとう、じゃあね!」



その真意なんて埼京に読めるはずもなく、ただ受け取った好意にありがとうと言葉を残して去って行く。りんかい遅いよー、と言いながら当たり前のように腕をからめる埼京に、りんかいはごめん、と小さく詫びた。ゆりかもめが遅れることを伝えていないことくらいお見通しだというように。

本当にむかつく奴だ、とにらんでやると、余裕に満ちた表情と目が合った。





[予想外に近くて遠い]







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(昔:ゆりかもめ→)りんかい×埼京←ゆりかもめ
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