ENPASU(山河さん)のとこの10/08日のりんさいゆりたん漫画から影響を受けています。





 秘密なんだわ、ごめんな。そう言ったゆりかもめの表情はとても楽しそうで、うん、と短い返事しかできなかった。何かひっかかるものの正体があと一歩見つからないような、そんなもどかしさに小さく制服の裾を握る。
 ゆりかもめはそれだけを言うとまた何処かへ去って行き、後に残されたのはどうしようもない感情だけ。ああどうしよう、なんて頭を下げると、りんかいが動いた気配がした。少しだけ目線を上げると、僅かに開いた口元が見える。
 その口が何か言う前に、ぼくもう行くね、と埼京は走り去ってしまった。



「……はあ、」
 小さく息を吐いたら、しあわせが逃げるよ?なんて言いながら宇都宮がのしかかってきた。少しだけ首を動かすと、ひどく楽しそうに口許を歪めた表情が見える。
「しあわせが逃げたから溜め息ついたの」
「ああ、りんかい?」
「っ、……知らないよ、」
 あからさまに動揺してしまったことに後悔した。そもそも宇都宮に隠せるだなんて思ってはいないけれど。この男のことだから、きっとその辺から見ていたのだろう。ふうん、と更に面白がるような声色に声を荒げようとすると、すっと宇都宮が離れた。降参をするように顔の横に両手を上げて、どこか遠くを見るその先にいるのは高崎だ。
「伝言」
「え?」
「りんかいが、終電の後待ってるからって」
「・・・」
 めんどくさそうにそれだけ言うと、高崎は宇都宮の手を引いて戻って行った。

「なんだよ、」
 その伝言を高崎が伝えに来たってことは、つまりりんかいが高崎に話しかけたということだ。そんなことにさえ嫉妬して、自分の器の小ささに驚いてしまう。
 だって不安なのだ。りんかいはいつだって冷静で穏やかで、すぐ感情を表にだしてしまう子供っぽい自分とはまったく違う。正直に言うと、釣り合っている自信なんてない。こっちは不安で仕方がないのに、余裕ばかり見せるものだから本当に困る。結局好きなのは自分だけなんじゃないのかとか、優しさに付け入ってるだけなんじゃないか、とか。
「…どうしよう」
 伝言は聞いたから、行かなきゃいけない。けれど素直に会いに行って、どんな顔したらいいんだろう。りんかいが意図したことじゃないにしろ、打ち切られた話をまた引き出すなんて出来ない。かといって、何もなかったかのように振る舞う自信もない。
 ガタンと大きな音をたてながら入ってきた自分の列車に乗り込みながら、とりあえず仕事が終わってから考えよう、と思考をやめた。



「来ちゃった…」
 終電の後、言われたとおりりんかいの部屋に来た埼京は困っていた。仕事が終わったその足で、つい何も考えずに来てしまった。扉を叩こうと中途半端な高さに上げられた手のやり場がなくて、きょろきょろと辺りを見回す。
 多分、りんかいは部屋にいるはずだ。扉を叩けば、すぐに出てきてくれる、と思う。きっとりんかいはあんなこと気にしてないだろうから、埼京も気にしないふりで接していればいい。いつも通りに。
 勇気を振り絞り扉を叩く。こんこん、と情けないほど控えめな音が鳴る。すぐにぱたぱたと足音が聞こえて、埼京はどきりとした。りんかいがこんな風に走るはずがない、じゃあ誰の足音、まさか。ガチャリと扉が開いて出て来たのは、昼間埼京を散々振り回した張本人だった。
「なんだ、JRのチビか」
「ゆりかもめ、」
 なんでどうして、ゆりかもめがここにいるの。しかもその恰好。風呂上がりらしいゆりかもめはいつもと大分違っていて、ツインテールは解かれて濡れたまま、TWRのロゴが入ったぶかぶかのTシャツは多分りんかいのものだ。
「なんでここにいるの」
 ぐるぐると混乱する思考を総動員して発した言葉は弱々しくて、ゆりかもめは面白がるような表情をつくる。玄関を開けたままのやりとり、埼京はまだ廊下にいるままだ。
 次の言葉を探そうと必死に頭を働かせる埼京に、愛しい声がかかった。
「埼京?来てるの?」
 りんかい、と名前を呼ぶ声は掠れて音にならない。ゆりかもめの後ろに現れたりんかいは頭にタオルをのせていて、2人とも風呂上がりなんだ、とさらに埼京を混乱させる。
「入りなよ、寒いでしょ」
 お前は邪魔、と玄関に仁王立ちするゆりかもめをぐいと押しやると、ゆりかもめは嬉しそうにその腕にしがみつく。すごく楽しそうにしているから、りんかいが吐いた小さな溜め息には気がついていない。
「おじゃまします…」
「うん、いらっしゃい」
 靴を脱ぎリビングに入ると、いつも通りのりんかいの部屋だ。ハンガーにかかったゆりかもめの服以外は見慣れたまま。だからこそいつもと違う一点に目がいってしまい、ああもう、我慢できない。ぎゅうと強く握りこんだ手に気づいたりんかいが何か言おうとするよりも、埼京の方が早かった。
「なんでゆりかもめがここにいるの」
「んー?ヒ、ミ、ツ、」
「ふざけないでっ!」
 揶揄を含む声色に思ったより大きな声がでて、ゆりかもめはもとよりりんかいも驚いたみたいだった。最悪だ、こんな風に八つ当たりするなんて。だって自分勝手だ。りんかいにはりんかいの人付き合いがあるし、ゆりかもめがりんかいのことを気に入っているのは、埼京がりんかいを好きなように仕方のないことだ。
 しかし、わかっていても嫌なものは嫌だった。しかたない、で割り切れるほど大人じゃない。
「何だよお前?」
 未だ笑顔を浮かべたままのゆりかもめに覗き込まれ、驚いて一歩後ずさる。何だよ、と抗議する前に、りんかいがぐいとゆりかもめの肩を引いた。
「お?」
「お前、もう帰って」
「えー、何だよ」
「それ着てっていいから」
 それ、というのはゆりかもめの着ている服をさすのだろう。ぶすっとした表情を緩めて、しかしまだ不機嫌そうなままのゆりかもめは、自分の服を乱暴に掴むと「また明日な」と手を振って部屋を出て行った。
 すぐにりんかいが鍵をかけて、チェーンまで引っ掛ける。
「埼京」
「……」
「ごめんね」
「…ううん」
 悪いのはどう見積もっても自分だ。りんかいは悪くない。ごめん、と同じ言葉を告げると、りんかいの細い指が髪をくしゃりと撫でる。見上げた表情が思ったよりも優しくて少しほっとして、そしてその優しさに申し訳なさが一層こみあげてくる。こんな子供みたいな自分嫌いだ。りんかいにつり合うような大人になりたいのに。そう思うと、じんわりと瞼の奥が熱くなってくる。
「ごめんってば」
「っ、う…」
 こぼれそうな涙を袖でぐしぐしと拭う。目腫れるよ、とりんかいの手が埼京のそれをそっと握って、でも、と言葉を紡ごうとしたけれど、ぐいと力をこめて引っ張られた。りんかいの腕にすっぽりと納まってしまった埼京はぱちぱちと瞬きをして、え、と小さな声を零す。まだ少しだけ濡れているりんかいの髪が視界の端に映る。あれ、抱きしめられてる、と状況を理解するころには、すっかり涙はひいていて。
「りんかい?」
「あれ、もう泣いてないの」
「…なんか、とまった」
 何それ、とくすりと笑ったりんかいの表情がいつもより柔らかくてドキリとする。あれ、りんかいってこんな風に笑うんだっけ、と考えて、そういえば2人きりになるのはもう随分と久しぶりだと思い至る。それはつまり、埼京と2人じゃないとこんな顔しないんだってこと。
「りんかい、好き」
「…どうしたの突然」
 そんなの知ってるよ、と当たり前のように零すりんかいに笑い返す。
「埼京はそのままでいいよ。今の君を好きになったんだ、変わる必要はないだろ」
 とりあえず座ったら、と促されて座ろうにも、心臓が尋常じゃない早さで動く。さらりとそういうこと言わないでほしい、いつもは好きだなんて絶対に言わないのに。
 そして僕が一日悩んでいたことをあっさりと見透かしてしまうりんかいのことが、やっぱり僕はすごく大好きだと思う。ずっと悩んでいたのが嘘みたいに消えていく。そのままの、今の僕。こどもっぽいとかじゃなくてただ、僕は僕でいていいんだって。つり合うつり合わないを気にしていたのなんて本当にくだらなくて、火照る顔を見られないようベッドに飛び込んだ。濡れた髪をぐしゃぐしゃと多少乱暴に乾かすりんかいの背中が近い。このどきどきが、どうか気づかれませんように。






Unclear








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ENPASU(山河さん)のりんかいとさいきょうとゆりかもめに大そう萌えたので!
こんな風に文にすることを許可してくださりありがとうございます、そしてこんなので申し訳ない!
ごろんごろんするほど萌えたのに表現しきれなくて絶望した。
でも書いちゃった、だって本当萌えたんだ(しつこい)。

ゆりたんに埼京を「JRのチビ」と呼ばせたい、あと髪を下ろしたゆりたんは絶対可愛い。
りんかいは存外、髪乾かすときぐしゃぐしゃってしちゃったり、座り方がだらしないと可愛い。
いやでもすげえきちっとしてても可愛い、やっぱ何でも可愛い。
埼京はあれですごくいろいろと考えてるよ。