終電を送り宿舎に帰る途中、見慣れた後ろ姿を見つけた。細身で全身真っ黒な彼の隣には水色のツインテール。驚かしてやろうとこっそり足音を忍ばせて近寄ったが、飛びかかろうとしたところでくるりとりんかいが振り返った。
「え!?」
「お疲れ様、埼京。何してるの?」
何をしようとしてたかなんて、両手をあげて今まさに飛びつこうとしている埼京を見れば一目瞭然なのに。ましてあの察しの良いりんかいなのだから、気づいていないはずがない。つまりからかわれているわけで。
「もう!何で気づいちゃうのさ?」
「足音がしなくともお前は気配でわかんだろ」
「えー・・・?」
横から言ったのは確かゆりかもめで、りんかいと一緒にいるのを見ることが多い。最初はてっきり2人が付き合っているんだと思っていて、それを言ったら「気持ち悪ィこと言うな!」とゆりかもめに思い切り殴られた。あれは痛かった。
「それは僕が無防備ってこと?」
「違うよ、僕が埼京に気づかないわけないじゃない」
「え、え?あ、そっかあ・・・」
優しく頭を撫でる手と言葉が恥ずかしくて俯くと、まじうぜえ!言いながらとゆりかもめは何処かへ行ってしまった。あれ、そういえば何か用があって一緒にいたんじゃないんだろうか。窺うように見上げれば、いいんだよ、とひどく安心する声色が返ってきた。
「君こそ何かあったんじゃないの?」
「違うよ。りんかい見つけたから来ただけ!」
「そっか。用がなくても会いたいくらい僕のことが好きなんだね?」
「ちっ、違・・・!うこともない・・・けど・・・」
慌てて弁解しようとすると、りんかいは楽しそうに笑った。わかってるよ、ともう一度柔らかい髪をくしゃりと撫でると手を下ろす。感情が表に出やすい埼京は、他の路線にからかわれることがとても多い。宇都宮や高崎はいつものことだし、そこまで酷くなくてもりんかいだってそうだ。でも何故か、宇都宮と高崎は嫌だと思うことはあっても、りんかいは嫌じゃない。むしろそうやってからかわれた後は必ず優しくしてくれるから、むしろ・・・どちらかと言うと、好きかもしれない。
って、それじゃ僕がいじめられるの好きみたいだ!と思い当たった埼京は自分の考えを振り払おうと勢いよく首を振った。ちょっと驚いたように目を見開いたりんかいはすぐにいつも通りの顔に戻って、くすくすと楽しそうに笑うと埼京の手を取った。
「帰るんでしょ?ほら、一緒に行こう」
「うん!」
優しく言うりんかいに、やっぱり僕いじめられるのが好きでもいいかもしれない、なんて思ったけど、そんなこと言えば京浜東北は呆れたようにため息をつくだろうし、宇都宮と高崎は絶対それをネタにからかってくるから、これは僕だけの秘密なんだ。
意味もなく会いたくて
次の日の朝。見てたよ?仲良しだねえ、なんて宇都宮から言われ、心臓が飛び跳ねたのはまた別のお話。
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埼京はりんかいにからかわれるのは好きだと思うって話。
宇都宮と高崎のそれとりんかいのそれは明らかに性質が違うと思うけども!