「むさしのー」
「ん?」
間延びした声で名前を呼べば、武蔵野はすぐに顔をあげる。僕たちは今こたつに向かい合わせに入っていて、その上にだらしく伏せている。ここは武蔵野の部屋だ。僕の部屋にこたつはない。毛足の長いあたたかい絨毯がひいてあるが、冬はやはりこたつが恋しくなる。昔はこたつなんて、ださいし邪魔くさいなんて思っていたのに。
「こたつっていいねぇ」
「だろ?お前も買えばいいのに」
「えー、僕はいいよぉ」
「ふーん?」
「武蔵野がいないと多分、あったかくないじゃない」
君がいるからあったかいと思えるんだ。そう言うと、武蔵野は普段なら絶対しないような柔らかい笑顔をくれる。たまらなく嬉しくなって手を伸ばすと、武蔵野のそれがぎゅ、と握り返してくれる。
「冷た」
「冷え症だからね」
少し眉根を寄せた武蔵野をもったいないな、と思ったけど、両手で手を握られてどきりと心臓がはねる。僕のそれより随分と暖かい手で包まれ、冷えた手が顔からあっつくなる気がした。
「ふふ、」
「何笑ってんだよ?」
言葉はいつも通りなのに、その響きや表情はとても優しい。いつもぎゃあぎゃあと騒ぐのは、他の仲間が一緒にいる時だけだ。2人きりの時に大声で騒ぐなんてこと、武蔵野は絶対にしない(むしろ夜なら僕の方がうるさいだろうし)。
「しあわせだねぇ」
「…そうだなー」
少し間をおいて返ってくる同意も何もかもが愛しい。じんわり両手に伝わる体温も、君がいないと温かくないこたつも、全てが心地良いと思う。
「むさしの」
「なーに?」
「だいすきだよ」
「知ってるよ、」
そんなこと。少し恥ずかしそうに目を反らした君がどうしようもなく愛しくて、このまま柔らかい時間に溺れてしまおうと彼の手を感じながら目を閉じた。