「東海道、お菓子頂戴」

「そんなものはない!」

くるりと振り向いた先には、まるで似合わない神父のような格好をした上越がいた。にっこりと胡散臭い笑みを浮かべて両手を差し出す。意味がわからなさすぎて怒ることすら忘れてしまった。間抜けな声に上越はくすくすと笑うと、ハロウィンだよ、東海道の手をとる。

「だからさ、お菓子頂戴って言ってるの」

「そんなものはない」

「お菓子くれないと悪戯するよ?」

それでもいいの、と耳元で囁く。それでもう十分悪戯になるだろう、なんて、上越に言っても無駄なだけだ。まだ仕事中だというのに敏感に反応してしまう自分が悔しくて、けれど本当にお菓子なんて持っていないのだからどうしようもない。

「・・・ま、待て上越!」

「なに、お菓子くれるの?」

「何が欲しいんだ。終電までに用意してやる」

「・・・へえ」

にやり、と口の端が持ち上がった。墓穴を掘ったことに気がつかない東海道は、体を離した上越にほっとため息をついたりしている。ふと目があった上越の表情はご機嫌そのもので。

「ぼく、東海道が食べたいな」

ピンチを切り抜けたつもりの東海道を、今度こそ固まらせる言葉を吐くのだった。神父には似ても似つかない、獣のような目で。



(おとこはおおかみなのよ、きをつけなさい!)