「トリックオアトリート!!!」

「・・・は?」

もう寝ようかと寝間着に着がえて、今日も疲れたなあなんて明日の業務を確認していたら。突然ばたんと扉が開いて、無遠慮にもほどがある半蔵門が飛び込んできた。いいかげんうんざりしてため息を吐くと、それでも半蔵門は嬉しそうに両手を差し出す。ああ、そういえば今日はハロウィンだったか。

駅とかその辺で、そんな感じの広告を見たような気もする。でもハロウィンなんて日本にはそこまで馴染みのない行事で、どちらかと言うとクリスマスやバレンタインの方がよっぽどメジャーだろう。それなのになんで、と考えて、部屋に飛び込んできた時の半蔵門の言葉を思い返す。

つまり、半蔵門はお菓子が欲しかっただけなんだろう。

お菓子はまだかと瞳をきらきらさせて見上げてくる様は本当に年上かと疑ってしまうほどだ。南北が開業した時に初めて会ったのは当然のことながら銀座で、その後に丸ノ内が続いて日比谷が来て、とみんなあまりにしっかりしていて正直緊張していた。最後にあった半蔵門だけだったかもしれない。子供だった自分に遠慮もなくいきなり飛びついてきて抱きあげて、あげく部屋に持ち帰ろうとしたのなんて。

そんな昔話はどうでもよくて。今はこの目の前の紫色のお兄ちゃんをどうするかを考えなくてはいけない。南北がお菓子を持っていないなんて思考の端の端に追いやられているのだ。ない、なんて言って騒ぎだしたら面倒だし、かといって悪戯だなんて言い出しても厄介だ。

「半蔵門、」

「何くれんの?」

「トリックオアトリート」

「・・・へ?」

意味がわからない、といったように首をかしげる。

「だからそのままの意味だよ。半蔵門もお菓子頂戴」

「えー!持ってきてない、そんなの聞いてない!」

「僕だって聞いてないよ」

ぶうとふくれた風船のような頬を両手で挟む。何だよ、と見上げてにらむ表情は、ほんと年上だなんて信じられない。ああ、でも。ちょっとした些細なことで、やっぱり走ってきた時間の違いを思い知らされたりもするのだ。

「だからさ、悪戯していいよ」

「え、」

「僕もするけどね?」

う、と言葉に詰まった半蔵門の顔が存外赤くなるものだから、うっかり南北も自分の言葉の恥ずかしさに気がついてしまう。しかし動揺を悟られたりしたくはないから(そもそも半蔵門が気づくはずもないけれど)、気づかれないようにこっそり顔を反らす。頬を挟んだ両手に半蔵門の少しだけ大きいそれが添えられて、きゅ、と小さく力がはいる。

お互いに真っ赤な顔をして、本当は悪戯をしに来ただなんて、本当は用意したお菓子を隠しただなんて、絶対に言えないのだ。