がくんと背中に体重がかかる。こんなことをするのは半蔵門だ。自分と同じかそれよりも重たい体がのしかかって来るのは楽じゃない。衝撃で倒れそうになったところを何とか踏みとどまると、背中に貼りついた半蔵門を振り払うように振り向いた。
「重たいし危ない!転んだらどうすんのさ!」
「えー、転んだら俺が守ってあげるよ」
「後ろから飛んでくるくせに・・・」
どう考えても無理だろ、お前力ないし。冷たく言ってやれば、ひでえ!と煩く騒ぎ始める。このバカはいつだってそうだ。接続の駅だって1つしかないのに、やたらとどこにでも現れる。決まって後ろから、僕に気づかれないようにそっと近寄ってきて突然飛びかかって来るのだ。一度階段の上でやられた時には、本当に殺す気なんじゃないかと思ったほど。空気を読むとか読まないとかの問題じゃない。何も考えていなさすぎる。
「で、今日は何の用?」
「あのさ、昼飯食った?」
「食べてない。ていうかまだ11時だし」
「でも俺はお腹空いたの!んで、南北も食べてないなら丁度良いからさ、飯食いに行こーぜ」
おごってやる!と楽しそうな半蔵門に、僕はまだお腹空いてない、なんて言ってみたところでこいつは聞いちゃいない。南北の手を握ったまま歩きだす半蔵門はひどく楽しそうで、それを見て「まあいいかな」なんて毎回毎回このわけのわからない言動に振り回されてしまうのはいつも僕だ。それが結局、半蔵門のわけのわからない行動を抑制できなくなる理由なんだけど。
「何食う?」
「決めてないの?」
さも目的があるかのように歩いていた半蔵門の言葉に目を丸くする。本当にもう、なんというか。
「お前ほんとわけわかんない・・・」
一気に疲れた気がしてがくりと肩を落としたけれど、半蔵門はちっとも悪いなんて思ってないように「ごめん!」と大きな声で言う。わざわざ地上まで連れ出しておいて目的地がないなんてどういうことだ。基本的に、外には出たくなんかないのに。
「だってさ、南北こうでもしないと出てこねーから」
「めんどくさいし」
「・・・それってさ、寂しくないの?」
覗きこんだ半蔵門の視線がいつになく真剣で、思わず言葉に詰まる。関係ないだろ、と視線を反らしたくても、伸びてきた手に顔を挟まれてかなわない。
「そんなこと、ない」
「嘘くせー」
否定したのに。別に寂しいなんて思ったことはない。ただ、自分は要らないんじゃないかと思ったことなら数えきれない。計画から開業までの時間があまりにも長い。計画だけなら千代田よりも先だったというのに。そんなことから、南北は自分の存在意義を見出せないでいた。要らないなら要らないで、つくらなきゃよかったのに。
「寂しくないって言ってるじゃん」
「嘘くさいんだって」
「嘘じゃないし」
「・・・ああ、そっか。嘘じゃないのな」
ほんと意味わかんない。多少イラついた口調で言うのに、半蔵門は楽しそうに笑っている。離された手が今度は頭の上に乗って、小さな子供にするようにそっと撫でる。
「俺がいるもんな、寂しくないよな!」
「っ!ばっ、バカじゃないの!?」
何を言い出すんだこいつは、と言い返そうにも、不意に飛び込んだ言葉に素直に反応してしまう体温が悔しい。一瞬で顔があつくなったのなんて気のせいだ。いてもいなくてもどうでもいいとしても、しつこいくらいに付きまとう半蔵門がいるから平気だなんて。
「南北、照れてる?」
「うるさいよバカ半蔵門!」
顔赤いよ、と揶揄する半蔵門の手を払いのけて歩きだす。どこ行くのー、と追いかけてきた半蔵門の手を強引に引っ張り手をつなぐと、昼ご飯食べるんだろ、とやり投げな返事を返してやる。絶対に自分から手をつながない僕の行動に驚いたのか、握った手から動揺が伝わって来る。でもすぐにそれは楽しそうな声にかわって、何処行くの、とさっきの僕と同じ問いかけ。悔しいから答えてなんかやらないけど。
いつも傍にいてくれる半蔵門のことが本当はすごく大好きだなんて。つないだ手の温度に安心するなんて。
本人には絶対に言えない。
[秘密だけどだいすき]
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南北の全線開業は今日だって知って!慌てて書いたのに!全然開業関係なかった!!!
半蔵門はひとりぼっちになりたがる南北を気にしてすっごくかまってあげてるといい。
南北はそれをうざい!とか言いながら実はすごく嬉しくて大好きで安心してればいい。
実はちゃんと考えてて、KYな行動は上越の自己防衛のそれと同じような感じの半蔵門萌え。
そんなところもわかってて支え支えられな関係の半蔵門×南北がたまらないです。夢みすぎ。
この間の武蔵野京葉みたいにカプっぽい色合いにしたけどやっぱり気持ち悪かった。