[上越×東海道]



「東海道って早口言葉が苦手そうだよね」

「何だ突然」



部屋の窓から見上げた空には大きな丸い月、それと降り注ぐ流れ星。これだけたくさんあれば早口じゃなくても大丈夫かもしれないけど、と窓を開ければ、寒いぞ上越、と文句をいいながら東海道も出てくる。



「せっかくだから何かお願いしようよ」

「つばめを東海に来させるな」

「…夢がないよ東海道」

「ふん、くだらん」



星に願いを、なんて小さな女の子のように信じているわけではない。ただ、君ならどんな願い事をするのかな、とちょっとした興味で。



「星になど願わなくても、お前が叶えてくれるのだろう」

「…何を、」

「お前がずっとそばにいてくれればいい」

「え、何それ…」

「何度も言わせるな!私はただお前にいてほしいと…!」

「東海道」



怒鳴りはじめた東海道の腕を掴み、夜だから、と窘める。多少はっとしたように黙った顔は耳まで赤くて、本当なら僕が照れる側なんだけどなんて思いながらも表情が緩むのはお互い様だ。



「ずっといるよ」

「あ、当たり前だろう」

「うん」



今にも泣き出しそうほど赤くなった頬に手を添えれば、条件反射のように目を閉じる。何期待してるの、とからかってもいいんだけど、今日はやたらと素直だったから。有り余るほどのご褒美をあげたっていいだろう。



「もう遅いからさ、泊まっていきなよ」

「…明日の運行に支障のない程度にな」



それはどうかな。くすりと笑いながら手を繋いで部屋へ戻り、窓をしめる。綺麗に磨かれた透明なガラスに、キラリと映る流れ星がひとつ。


















[半蔵門×南北]


「あ、流れ星!」

「え?」



薄暗くなってきた屋上で2人、背中から伝わる体温に目を閉じた瞬間。半蔵門の少し大きい声が響いた。ぱち、と目を開けて空を仰ぐがそこには青紫に沈みかけた空と、それからうっすらと見える半分の月しかない。



「ないよ、半蔵門」

「だって嘘だし」

「…何それ」



期待したわけじゃないけれど、流れ星だと言われたら誰だって少しは嬉しくなるだろう。からかわれたんだな、と少しむっとして口を尖らせると、寄り掛かっていた体温がふと離れた。

体重をまかせていたそれがなくなれば転がるのは当たり前で、背中打ったら痛いかな、全部半蔵門のせいだ、なんて思ったけど、衝撃はなく。



「可愛いなお前」

「ばかじゃないの」



暖かい腕の中におさまってしまった。不本意ながら1番安心する場所だと思っている(もちろん本人には内緒だけど)そこに入ってしまえば、先程までの眠気と合わさって本当に瞼が落ちそうになる。

しかし、してやったり、といった半蔵門の笑顔はなかなかにむかつくので。



「あ、流れ星」

「うそっ!」

「嘘」



おんなじ嘘をついて、空を仰いだ隙に開いた口を塞いでやる。驚いて真ん丸になった目にキラリとひとつ、光ったそれは本物の流れ星だったかもしれない。


















[京葉×武蔵野]



「武蔵野、星が降ってるよ」

「ん?…ああ、流れ星か」



言われて顔をあげれば、まだ薄明るい空を一瞬だけ星が駆けた。それを「降る」と表現するのが京葉らしいと思い少しおかしくなる。頭ン中に花が咲いてる、だなんてからかうこともあるけれど、本当にそうなのかもしれない。



「僕お願いごとしちゃった!」

「そら良かったな」

「気になる?」

「別に」

「ええ、聞いてよ」



聞いたら聞いたで教えない、とか言ってくるに決まっているのに。ぶう、と頬を膨らませるのを子供みたいだ、なんて言えばまたそっぽを向いてしまうから、ふわふわと柔らかそうな髪をくしゃりと撫でてやる。驚いたのか細い肩がふるりと震えて、ちらりとこちらを見る。



「子供にするみたいに触らないでよ」

「子供っぽい自覚あったんだな」

「そういうわけじゃなくて!」



いよいよ怒らせてしまったのか立ちあがった京葉に、少し調子に乗りすぎたかもしれないと反省する。京葉があからさまに感情を吐露するのは自分に向けてでもそうそうないことなので、何かそれだけ重要なことでも考えていたのだろうかと考える。しかし思い当たることは一切なく。



「武蔵野が毎日正常運行できますようにーって」

「はあ?」

「お星様に、お願いしてあげたのに」



すとん、と再び隣に腰を落とし、ことりと小さな頭を肩に乗せてくる。お願いしてあげたのに、ともう一度繰り返すと、もてあましたように膝の上にあった手が握られる。



「武蔵野だってちゃんと走りたいでしょう」

「・・・そりゃ、な」

「わかってるよ」



僕だって走りたいもの、と小さな声が空気に溶けて消えていく。空から降る星のように、駆けてはすぐに消えゆくような。気まぐれに走るだけの路線であっていいわけがないのに。



「ねえ、もう帰ろっか」

「そうだな」

「僕カルボナーラが食べたい」

「はいはい」

「むさしの、」



立ち上がり伸びをすると、制服の裾を京葉がつい、と引っ張っていた。何だよ、と下にある京葉の方を振り向くと、薄暗いせいでわかりにくいが心なしか赤くなった顔で小さく。



「手、つないで帰ろう」



丁度良いタイミングで入ってきた最終列車の音にかき消されたそれは自分の耳には酷く大きく響いて。動揺を悟られないようぶっきらぼうにその手を握り立たせると、大股で出口へと向かった。